よみもの
運動の不器用さって何?
東恩納拓也
はじめまして。東恩納拓也(ひがしおんな・たくや)と申します。
私は作業療法士で、現在は大学で勤務し、教育、臨床、研究の仕事をしています。
私の主な研究テーマは「協調運動の問題をもつ方への生活支援」です。
こちらの「よみもの」では、子どもや大人にみられる、いわゆる運動の不器用さについての情報を発信できればと思います。少しでも読者の皆さんのお役に立てる情報を発信できれば幸いです。
運動の不器用さ とは?
私たちは、運動が苦手な状態に対して「不器用」という表現を使うことがあります。これを専門的な言葉で表現すると「協調運動の問題」と言い換えることができます。
協調運動とは、簡単に言うと、まとまりのある運動のことを指します。例えば、縄跳びを跳ぶためには、両手で縄を回す、両足でジャンプする、目で縄の動きを見る、という複数の動作を同時に行い、一つのまとまりのある運動として行う必要があります。このように、協調運動は、同時に複数の身体部位を動かすような複雑な運動であるとも言えます。
協調運動は、私たちが、何か目的のある行動や動作をするときに欠かせない運動であり、協調運動が苦手になると、ぎこちない動きとなり、日常生活を送る上で様々な影響がみられるようになります。
運動の不器用さがある子どもたち
運動の不器用さがある子どもたちの中には、DCDという神経発達症(発達障害)の診断名に該当する子どもたちがいます。
DCDとは、アメリカ精神医学会が発表する国際的な診断基準DSMに記載されている診断名です。DCDはDevelopmental Coordination Disorderの略で、日本語では「発達性協調運動症」と訳します。
DCDの診断基準の主な内容は以下の通りです。
- 協調運動技能の獲得と遂行が、生活年齢や技能の学習および使用の機会に応じて期待されるものよりも明らかに劣っている。
- この協調運動技能の問題が、日常生活活動を著明および持続的に妨げている。
- 症状の始まりは発達段階早期である。
- 協調運動技能の問題は、知的発達症や視覚障害によってうまく説明されず、運動に影響を与える神経筋疾患(脳性麻痺、筋ジストロフィー、変性疾患など)によるものではない
つまり、運動の問題を説明できる明らかな疾患がないのにもかかわらず、協調運動スキルを身につけたり上手に行ったりすることが苦手で、日常生活に問題を抱えている状態です。
重要なことは、日常生活活動への影響も診断基準に含まれていることです。
日常生活活動には、食事や着替えなどのセルフケアや、書字、学用品の使用などの園・学校活動、ボール遊び、スポーツなどの余暇活動などがあり、協調運動の問題によってこれらの日常生活活動に影響が出ていることが、DCDの重要な症状とされています。
そのため、DCDがある子どもとは、単に運動が苦手な子どもではなく、「運動の不器用さがあって、生活で困っている子ども」だと理解することがとても重要です。
「運動」という言葉に引っ張られて、子どもの身体や動作に目が向かれがちですが、「生活」の視点も取り入れ、運動の不器用さによって具体的に何に困っているのかを捉えると、さらに理解と支援が広がります。
また、このように捉えていくと、DCDがある子どもたちが生活の中で困っているのは、決して運動やスポーツだけではないかもしれません。
子ども本人の目線で、運動の不器用さを理解していくことが重要なのだと思います。
東恩納拓也(ひがしおんな たくや)
1991年 福岡県生まれ。 2014年に作業療法士免許取得後、2020年に長崎大学大学院医歯薬学総合研究科にて博士(医学)を取得。 2014年に国立病院機構長崎病院へ入職、2016年にみさかえの園総合発達医療福祉センターむつみの家へ入職後、2021年から現職。 作業療法士として臨床、研究、教育に従事するとともに、幼稚園、保育園、学校などへの訪問支援や地域支援事業者との連携を行っている。
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